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東京地方裁判所 昭和55年(行ウ)25号 判決

原告 オリエンタルモータ株式会社

被告 中央労働委員会

参加人 総評全国金属労働組合茨城地方本部オリエンタル土浦分会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(請求の趣旨)

1  被告が中労委昭和五三年(不再)第一号不当労働行為再審査申立事件について昭和五四年一二月一九日付でした命令を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

(請求の趣旨に対する被告及び参加人の答弁)

主文同旨

第二当事者の主張

(請求原因)

1  参加人(以下「分会」という。)は、原告が昭和五一年二月六日以降分会からの団体交渉の申入れを拒否していることを理由に、茨城県地方労働委員会に対し、昭和五一年四月一二日、原告を被申立人として不当労働行為救済の申立をしたところ、同委員会は昭和五二年一二月二四日付で別紙(一)のとおりの命令を発した。原告が右命令を不服として被告に対し再審査の申立をしたところ、被告は別紙(二)のとおりの命令(以下「本件命令」という。)を発し、右命令書は昭和五五年一月二四日原告に送達された。

2  しかし、本件命令は以下に述べるとおり事実認定を誤り、判断を誤つた違法があるから取り消されるべきである。

(組合事務所貸与の当事者について)

被告は、原告が分会の組合事務所を土浦事業所内に設置することを既に訴外総評全国金属労働組合千葉地方本部オリエンタル支部(以下「支部」という。)との交渉で了解し、両者間には右組合事務所の設置場所と広さの問題が残つているにすぎなかつた旨認定している。しかし、原告が支部との交渉において組合事務所の貸与を了解したのは支部の組合事務所であつて分会のそれではなく、しかも右了解は組合事務所の広さ、設置場所について合意に達していない以上、未だ契約としての効力もないものである。

(組合事務所貸与に関する原告と支部との交渉について)

被告は、原告は昭和五一年四月八日、同月一三日に行われた組合事務所に関する支部との団体交渉において、同年三月一八日付で支部に対してなした回答を最終案としてそれに固執するのみでおよそ組合事務所貸与の問題について誠意ある団体交渉を行つたとはいえないから、結局昭和五〇年一一月一一日以降支部との間で右の問題につき団体交渉を行つていない旨認定しているが、原告は支部との間で組合事務所貸与の件について昭和五〇年五月一五日以降同五一年四月一三日まで一一回の団体交渉を行い(その間事務折衝も行われている。)、右交渉の中で豊四季事業所における組合事務所設置の件と共に土浦事業所における組合事務所設置の件についても設置場所、貸与条件等を話し合い、その最終段階において右昭和五一年三月一八日付回答(使用貸借協定書案)を提示したが、支部がこれを不満として再考を申し入れてきたため貸与に至らなかつたものである。しかも、その後も原告は支部との間で組合事務所貸与の件について、昭和五一年四月八日、同月一三日、昭和五二年七月五日、同月七日、同月一三日、同月一五日、同月二一日、同月二七日と団体交渉を行つているのであつて、これらの原告と支部との交渉経過と、組合事務所の貸与が便宜供与として組合に対する経費援助の例外とされ、その貸与条件も企業経営に支障を生じさせない範囲にとどまるべきものであるとされていることを考慮すると、支部こそが原告の譲歩の限界を無視し自己の主張に固執していたものというべきであつて、原告としては支部との間で組合事務所貸与の件について誠意ある団体交渉を行つてきたものであり、被告の前示認定は誤りである。

(分会の原告への対応)

被告は、支部が昭和五〇年八月一二日原告に対し、事業所ごと交渉に関する支部の方針を記載した書面を提出し、土浦事業所の分会事務所の設置場所等については分会交渉に委ねたい旨説明しているから、支部が原告に示した事業所ごと交渉に関する方針と現実の対応との間にそごはない旨認定している。しかし、右認定には次のとおり誤りがある。即ち、

(一)  支部からの右八月一二日の申入れの際には組合事務所の問題は含まれていなかつたし、支部が事業所ごとの交渉と言い出したのは、高松事業所における事業所長と組合員間の交渉問題においてであり、土浦事業所における組合事務所貸与の問題においてではなかつた。しかも支部のいう事業所ごとの交渉とは、各事業所長と各分会との交渉を考えていたもので、原告と分会との交渉の話はなかつたものである。

(二)  更に被告の右認定は、組合内部の関係のみを判断したものであつて、支部や分会の原告に対する対応や説明の有無及びその内容がどうであつたか等を検討することなく一方的になされたもので、不当である。即ち、

(1) 分会は昭和五〇年九月三〇日労働組合として結成されたとされているが、原告は同年一一月一八日分会役員の名簿の通知を受けたのみであり、この通知だけからは直ちに分会が自主独立の労働組合となつたとは考えられなかつた。更に原告は、同年一二月二二日分会の加盟する上部組織が千葉地方本部から茨城地方本部に変更になつた旨の通知に接し、ますます混乱した。分会はこのような状況を作出しながら、原告に対してはその間の説明をしようともせず、一方的に団体交渉を要求する態度に終始したのである。

(2) 他方、支部にも分会と原告との交渉についての正常なルール作りに協力するという姿勢はみられず、むしろ組合の名を出せば団体交渉に応ずべきであるとの態度に固執し、原告が分会の権限や支部との関係について説明を求めてもこれに応じず、支部及び分会の各規約の提出を求めてもこれに応じることはなかつた。

(3) このように名称変更があつてもその間の説明もしない分会の実体は原告にとつて不明の状態であつた。

また、当時の分会規約からしても、分会はその決定事項については支部の承認を要するとされているなど、実体的にも支部からの独自性に欠けていた。

(まとめ)

以上のとおり、分会は、既に原告が支部との間で土浦事業所の組合事務所貸与の件につき充分に団体交渉を行つていたにもかかわらず、自らの組織体の内容や支部との関係、特に土浦事業所の組合事務所貸与の問題について交渉権限を有するかどうか等の説明もせず、原告を混乱させながら、しかも自らが交渉を担当する必要性も相当性もないのに、全く突如として原告に団体交渉を申し入れてきたのである。このような分会の従来の交渉経緯を無視し契約当事者の変更をも伴う一方的な団体交渉の申入れは信義則に反し、団体交渉権の濫用に当たるものというべきであつて、原告が団体交渉を拒否したことには正当な理由がある。

よつて、原告は本件命令の取消しを求める。

(請求原因に対する被告の認否及び主張)

請求原因1の事実は認め、同2は争う。

本件命令は適法な行政処分であり、処分理由は命令書記載のとおりであつて、被告の認定した事実及び判断に誤りはなく、原告の主張は理由がない。

(請求原因に対する参加人の認否及び主張)

1  請求原因1の事実は認め、同2は争う。

2  参加人の主張

(組合事務所貸与の当事者について)

支部と原告との間では、分会が支部の下部組織であることを前提に、分会が使用するであろう組合事務所を土浦事業所に設置し貸与することは既に了解に達し、残された交渉事項は設置場所と広さという特定の事項にすぎなかつた。分会は、かかる事項についての交渉を引き継ごうとしたものであり、このように途中から分会の如き下部組織が交渉を引き継ぐことは労使の団体交渉において間間あることであつて何ら異とするに当たらず、まして原告を混乱させるものでもない。また、借主を分会とするか支部とするかについての原告の主張は全くの形式論であつて、まず原告が分会の申し入れている団体交渉に応じ、その中での話し合いによつて決定していけばよい問題である。

(組合事務所貸与に関する原告と支部との交渉について)

支部は、原告との間の昭和五〇年五月一五日の第一回団体交渉における組合事務所設置貸与に関する基本的了解を基に、更に原告との間で同年五月から六月にかけて組合事務所貸与協定締結に向けての団体交渉を行い、「豊四季事業所については松林の所に独立棟を建てる。それまでの間倉庫の一角を暫定的に組合事務所として貸与する。土浦事業所については別棟を建てることとし、その位置については現地で協議する。」という合意に達した。しかし、その後原告は、労働組合を嫌悪し、これを破壊する方針に転換し、組合事務所貸与については便宜供与である点を強調し、支部規約の提出を求め、その提出のないことを理由に組合事務所貸与に関する支部との団体交渉を拒否し、或いは形式的な団体交渉に終始する態度に出た。そして原告は、昭和五一年三月一八日には支部に対し一方的に最終案として使用貸借協定書案なる回答書を渡したまま、この回答書に関し支部が原告に団体交渉を申し入れたのに対しても、右回答書にて回答済みとの文書による回答のみで団体交渉にも応じなかつた。その後同年四月八日、同月一三日に行われた団体交渉において、組合事務所貸与の件が議題とされたが、原告は右回答書が最終回答であるとの態度に固執し、これにつき誠意のある団体交渉を行わなかつた。

(分会の原告への対応)

原告は、全社的には支部が存在し、その下には各事業所ごとに下部組織としての分会が存在していることを充分知悉していた。このことを前提に、支部は原告に対し、組合事務所問題を含む土浦事業所に関する問題は分会と交渉するよう申し入れていたものであり、分会もまたそれまで再三その旨を原告に対し文書で申し入れていたものであつて、この点について支部・分会の意見が一致していたことは原告においても理解していたものである。したがつて、分会が原告に対してなした昭和五一年二月六日以降の団体交渉の申し入れが、従来支部が原告との間で行つてきた団体交渉を分会が引き継ぐものであることは原告の理解していたところであり、原告の認識に混乱はなかつた。

なお、原告は、支部と分会の関係についての説明がなかつたとか、組合規約の提出がなかつた等として団体交渉の拒否を正当化しようとしているが、これらはいずれも分会との団体交渉を開いた上で説明を求めれば足りる事項である。しかも、原告は分会に対し、分会の規約の提出を求めたことはなく、原告としては分会を全く相手にもしようとしない態度をとり続けてきたものである。

以上のとおりであるから、原告の主張は理由がない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

そこで、本件命令の基礎となつた事実関係等について検討する。

いずれも成立に争いのない甲第四号証の一ないし四、同第一八号証、同第二七号証、乙第一五号証、同第一七ないし第二七号証、同第二九ないし第五一号証、同第五三ないし第六二号証、同第六四号証、同第七〇ないし第七二号証、同第七六号証、同第九六号証、同第九八号証、同第一〇三、一〇四号証、同第一一〇号証、同第一二二号証、同第一二四号証、同第一三一ないし第一四一号証、同第一六九号証、丙第六号証の二、同第一六ないし第一八号証の各一、二、同第二三号証、同第四六ないし第八七号証、同第九三ないし第一三八号証、同第一四一号証の一、二、同第一四二号証、参加人との間では成立に争いがなく、被告との間では証人福島伸夫の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第一二、一三号証、参加人との間では成立に争いがなく、被告との間では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二号証、同第七、八号証、同第九号証の一ないし三、同第一〇号証、同第一四号証、同第二一号証、証人福島伸夫の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第一一号証、同第一五ないし第一七号証、同第一九、二〇号証、証人酒井清の証言により真正に成立したものと認められる丙第四五号証、同第八八号証、証人福島伸夫(第一回)、同大池良三、同酒井清の各証言(但し、証人福島伸夫(第一回)、同大池良三の各証言中後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  原告は千葉県柏市に主たる営業所及び豊四季事業所を、茨城県土浦市、香川県高松市、山形県鶴岡市に事業所を置き、精密小型モーターの製造販売等を業とする会社である。支部は、昭和四九年一二月二二日原告に勤務する従業員をもつて結成された労働組合であり、右土浦、高松の各事業所にはその下部組織としてそれぞれの分会がある。

2  支部と原告は昭和五〇年五月一五日第一回の団体交渉を行い、その際、原告は支部に対し、土浦事業所・豊四季事業所の二か所に組合事務所を設置し貸与することを基本的に了解した。そして、双方は、設置場所等について更に検討を加えるため、その後も継続的に交渉をもつこととなつた。その後同月二八日、同年六月五日、同月一〇日に両者間で団体交渉が行われたが、その間豊四季事業所における組合事務所の具体的な設置場所の検討や使用貸借協定書案の逐条ごとの検討もなされた。ところで支部は、この頃から事業所単位の問題については各事業所の分会がそれぞれの事業所長との間で交渉を行うとの方針をとるようになり、同年七月一七日には原告に対し事業所ごとの交渉を議題とする団体交渉を申し入れ、同月二四日原告・支部間で同問題についての団体交渉が行われた。右団体交渉において原告は、事業所ごとの交渉は何が各事業所独自の問題か不明である上、事業所ごとの問題であつても、事は労使間の問題であり、重要であるから全社的に扱わざるを得ないとして、団体交渉は従来通り事業所長ではなく本社(原告)と支部との間で行うべきである旨主張したため、支部との間で意見の一致をみることはなかつた。また、この点について原告は同年八月五日支部に対し文書で右と同旨の回答を行い、支部も原告に対し同月一二日付文書で各事業所に限られる労働条件及び施設に関する事項については各事業所における所長と分会間の交渉に委ねること、但し、協議事項が全社に及ぶ場合には本社(原告)と支部間で交渉を行うものとすること、との考えを明らかにした。そして同月二一日、支部は再び原告に対し、事業所ごとの交渉の件、高松事業所における組合事務所及び掲示板設置の件を議題とする団体交渉を申し入れ、更に同月二六日には支部執行委員長大池良三及び上浦分会代表者和家浩一郎の連名により、原告に対し、土浦分会は組合事務所の設置場所としてコンプレツサー室と塗装工場間の空地を要求するとの要求書を出した。

3  次いで支部は、同年八月二八日、原告に対し事業所ごとの交渉の件、高松事業所における組合事務所及び掲示板設置の件を議題とする団体交渉を申し入れた。ところで、原告は以前から支部に対して組合規約の提出を求め、一方支部は組合内部の問題であるとの理由からこれを拒否していたが、原告は右団体交渉の申入れに対して、同年九月四日付文書をもつて、支部が組合規約を提出しない以上適法な組合か否か不明であり、かかる組合との団体交渉には応じられないとの回答を示して、これを拒否した。更に原告は、同月九日には全社員に対し、「社員の皆様へ」と題する書面を配布し、組合規約を提出しない支部は適法な組合であるかどうか疑問がある旨の考えを示した。これに対して支部は、同月九日原告に対し、右一連の行為に抗議するとともに、組合規約提出の件、事業所ごとの交渉の件等を議題とする団体交渉を申し入れた。右申入れに対し原告は、同月一〇日組合規約提出の件については団体交渉事項ではない旨、また、事業所ごとの交渉の件については回答済みである旨回答した。なお支部は原告との間で組合規約提出の件をめぐつて事務所折衝を行つたが、原告の歩み寄りはみられず、支部も支部及び分会の機構等について明らかにしないばかりか、むしろ組合員が交渉を申し入れる以上原告は当然に交渉に応ずべきであるとの態度に終始した。こうした中で支部はその後も原告に対し、改めて組合規約提出の件、事業所ごとの交渉の件等について団体交渉を申し入れたが、原告は右一〇日付の回答と同旨の回答を繰り返すだけであつた。

その後、支部は原告との間で昭和五〇年一一月一一日団体交渉を行つたが、原告は組合事務所の設置貸与の件については貸与することは便宜供与であることを強調するとともに、貸与については組合規約及び組合員名簿の提出が必要であり、提出のない限り貸与はできないとの立場を繰り返し、また、事業所ごとの交渉については各事業所の所長には交渉権限を与えていないこと及び労使問題は本社(原告)と支部との間で交渉を行えば足りる問題であるとしてこれを拒否し、他方支部も従前の見解を繰り返したため、両者間に意見の一致はみられなかつた。次いで同月二一日に行われた支部・原告間の団体交渉においても、支部は原告から組合規約の提出を求められたがこれを拒否し、またその機構についても原告が納得するような説明をしなかつた。

その後支部は、原告に対し、組合事務所貸与の件について同年一二月二五日、翌五一年二月二三日、同年三月五日それぞれ団体交渉の申入れをしたところ、原告は検討中という回答を繰り返していたが、同月一八日付で豊四季及び土浦の両事業所における組合事務所の貸与につき具体的な協定書案(乙第五〇号証)を提示するに至つた。しかし、支部は、右協定書案について、設置場所・広さについて不満があつたことから、同月二五日付で原告に対し、右両事業所の組合事務所貸与を議題とする団体交渉を申し入れたが、原告は右協定書案により回答済みであるとの態度を示し、これに応じなかつた。また、同年四月一三日の支部と原告との団体交渉においても、組合事務所貸与の件を議題として交渉の機会が持たれたが、原告側は組合事務所の貸与は便宜供与であることを強調し、その内容についても支部の説明要求に対して広さについては建築基準法上の問題があると述べた程度にとどまり、概ね右協定書案に調印すれば貸与するとの態度に終始し、話合いに進展はみられなかつた。

その後支部は原告に対し、同年五月一一日事業所ごとの交渉等を議題とする団体交渉を申し入れ、更に同年七月二六日「支部組合事務所の設置の件」として、土浦事業所における組合事務所貸与の件を除いた組合事務所設置の件を議題とする趣旨の団体交渉の申し入れをした。

4  分会は土浦事業所に勤務する支部組合員によつて結成され、支部の下部組織として活動していたが、昭和五〇年九月一二日分会規約を作成し、同年九月三〇日分会大会を開催して総評全国金属労働組合千葉地方本部オリエンタル支部土浦分会なる名称の労働組合として成立し、右の名の下に同年一一月一八日原告に対し執行委員長、副執行委員長、書記長等の役員名を通知した。その後分会は、同年一二月二二日原告に対し、同年一一月二一日付で総評全国金属労働組合茨城地方本部に加盟した旨の通知をした。

ところで分会は、同年一〇月九日付で土浦事業所長に対し、「組合事務所の件について」を議題として団体交渉を申し入れたところ、原告から同月一六日付で、原告は同一内容の要求を支部から受けていること、労使間の問題は重要であるから回答・交渉は本社(原告)において支部との間で行うこと、事業所長には交渉権限、妥結権限等一切の権限を付与していないこと、新たな要求については支部から社長宛に提出するようにすること、との回答・通告があつた。そこで分会は、昭和五一年二月六日、一二日に原告に対し、分会名で分会の組合事務所に関し、「土浦分会は組合事務所設置場所としてコンプレツサー室と塗装工場間の空地を要求する。」旨の要求書を提出するとともに、右要求書を議題とする団体交渉の申し入れをしたところ、同月一七日原告は分会に対し、「各事業所の労使間の問題については本部(支部)から団交議題として申し入れがあり、会社と本部(支部)との間で合意解決している」旨、また「要求事項及び団交の申入れは本部(支部)を通じてされたい」旨回答した。なお分会は、同月一九日付で同旨の要求及び団体交渉の申し入れを原告に対して行い、同年三月一日には原告及び土浦事業所長宛にそれぞれ要求書を出したりした。分会はその後も土浦事業所長宛に同年四月一〇日、同月二一、二二日、同年五月一一日それぞれ要求書及び団体交渉申入書を提出したが、同所長からは交渉権限がないので団体交渉はできない旨の回答が出されたに過ぎなかつた。

この間原告は分会に対し、支部との関係・交渉配分、権限等について説明を求めることも、また組合規約の提出を求めることもしなかつたし、また分会も原告に対し、自己の立場や支部との交渉事項の配分等について説明することも、組合規約を提出して自らこの点を明らかにすることもしなかつた。

なお分会の要求事項の一つである土浦事業所従業員の配置転換の問題については、昭和五〇年一〇月六日付要求書の中では豊四季、高松の各分会要求と併記の上分会要求として表示されて支部名で原告に要求がなされ、また同月九日付の同要求事項についての要求書及び団体交渉申入書では支部及び分会名で原告に対してなされているのである。そして、同年の年末一時金の要求については支部名のみでなされている。しかも分会の当時の規約には、分会で決定した事項についても支部の承諾を必要とする事項もあると解釈されていてその運用は必ずしも明確なものではなかつた。

5  本件に関しては、その後昭和五七年一月二〇日付で東京高等裁判所から原告に対し、分会と同分会組合事務所貸与の件に関して速やかに誠意ある団体交渉を行わなければならない、とする本件命令に従わなければならない、との緊急命令が発せられ、これを受けた形で同年三月一八日分会と原告との間において団体交渉が行われたが、原告は、これはあくまでも右緊急命令の履行として仮に行うものであるとの考えであり、またその交渉自体も分会に組合事務所を貸与しないとの結論を表明するにすぎなかつた。その後現在に至るまで、分会或いは支部等から分会の組合事務所貸与の件について分会との団体交渉を行うよう数多くの申入れがなされたが、原告は右緊急命令は右の団体交渉によつて履行ずみであり、またその件については既に原告の結論を伝達してあるとして、組合事務所貸与の件に限らず、分会との団体交渉を拒否し続けている。

以上の事実が認められ、右認定に反する証人福島伸夫(第一回)、同大池良三の各証言部分は前掲各証拠に照らしてたやすく措置し得ず、他の右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  以上認定の事実関係に基づき、原告の本件団体交渉の拒否が不当労働行為に該当するか否かを検討する。

前認定のとおり原告は分会からの団体交渉の申入れに応じなかつたものであるところ、原告は右申入れは実体の全く不明な分会が従前から支部との間で行われていた交渉に一方的に入り込んできたものであり、しかも支部との間では団体交渉が継続されているのであるから、分会の団体交渉に応じないことについては正当の理由がある旨主張する。なるほど、原告は土浦事業所に支部の組合事務所を設置貸与することについて、支部との間で昭和五〇年五月一五日以降団体交渉を続け、分会成立後も支部との間で団体交渉を行つていたこと、分会はそうした中で組合事務所設置貸与の件を議題とする団体交渉を申し入れながら、支部とは法人格が別であつてその加盟する上部団体をも異にする等の事情があるにもかかわらず、支部・分会の関係や交渉権限の配分等につき十分な説明もしていないこと、分会自体必ずしも支部から完全に独立した組織体といえるものではなかつたこと、したがつて、原告の分会に対する理解が必ずしも十分でなかつたこと等からすると分会の団体交渉の申入れには不適切な面がなかつたとはいえない。しかしながら原告は、組合事務所貸与の件に関する支部との団体交渉については、組合規約の不提出を理由にこれを拒否したり、自らの回答書に固執してその進展を図ろうとしなかつたこと、また、原告は支部が示した、各事業所長と各分会とが事業所ごとに交渉するという提案についてはこれを拒否し、すべて原告と支部との間で交渉を行うとする立場であつたこと、そして原告は分会からその役員の通知を受け、分会が執行委員長等の執行機関を有し土浦事業所の従業員によつて構成される組織体である旨の通知に接し、更にその後に分会自体が支部とは異なる上部団体に加盟した旨の通知にも接していることからすれば、分会は支部の下部組織ではあつても支部からある程度独立した労働組合であることも認識し、又は認識し得たものと推認できること、しかも分会の組合事務所に関する要求事項はその内容からして従前の支部・原告間の交渉を前提とするものであつて、その交渉を引き継ぐ趣旨で分会が団体交渉を申入れていること、原告も分会の右申入れがそのような趣旨であるものと理解した上で、これを事業所ごとの交渉の問題と同様に扱い、支部と交渉中であること等を理由にその申入れを拒否していること、また、原告は分会に対し、その交渉権限の有無等を問うことすらなかつたこと等を総合すると、支部と原告との交渉に進展がみられない状況で分会が同一議題についてではあるが自らの問題として原告に団体交渉を申し込むことは首肯できる上、前示のとおり分会の団体交渉の申入れには不適切な面も見られるものの、原告に分会の組合事務所貸与に関する団体交渉の申入れに対応できない程の認識の混乱や権限の不明確さがあつたものということはできない。むしろ原告としては、その後における分会との団体交渉への対応等をも勘案すると、すべての交渉は原告と支部との間でしか行わないとの基本的な立場から分会の団体交渉の申入れを拒否したものといわざるを得ず、かような事情の下では分会の団体交渉の申入れが、その必要性、相当性を欠くものとも、またそれが信義則に反し、権利の濫用となるものとも認められないものというべきである。したがつて原告は正当な理由なく団体交渉を拒否したものというべく、原告の右交渉の拒否は労働組合法七条二号に該当する不当労働行為であるというべきである。

以上のとおりであるから、本件命令に原告の主張するような違法はなく原告の本訴請求は理由がない。

三  よつて、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用(参加によつて生じた費用を含む。)の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邊昭 近藤壽邦 遠山廣直)

(別紙(一))

命令書

(茨城地労委 昭和五一年(不)第四号 昭和五二年一二月二四日 命令)

申立人 総評全国金属労働組合茨城地方本部オリエンタル土浦分会

被申立人 オリエンタルモーター株式会社 外一名

主文

一 被申立人オリエンタルモーター株式会社は、申立人総評全国金属労働組合茨城地方本部オリエンタル土浦分会に対し、同分会組合事務所貸与の件に関して、土浦事業所長とともに、速やかに誠意のある団体交渉を行わなければならない。

二 その余の申立ては棄却する。

理由

第一認定した事実

一 当事者

(一) 被申立人オリエンタルモーター株式会社(以下「会社」という。)は、肩書地に本社及び豊四季事業所を、茨城県土浦市、香川県高松市及び山形県鶴岡市に各事業所を置き、小型モーターの製造販売を業としている資本金一億円の株式会社である。

被申立人オリエンタルモーター株式会社土浦事業所(以下「土浦事業所」という。)は、肩書地を所在地とする会社の一事業所である。

(二) 申立人総評全国金属労働組合茨城地方本部オリエンタル土浦分会(以下「分会」という。)は、土浦事業所に勤務する従業員によつて結成された労働組合である。

また、分会は、会社従業員をもつて結成されている総評全国金属労働組合千葉地方本部オリエンタル支部(以下「支部」という。)の下部組織である。

なお、分会は、申立時においては総評全国金属労働組合千葉地方本部オリエンタル支部土浦分会という名称であつたが、昭和五一年九月一九日に現在の名称に変更した。

二 組合事務所貸与についての労使間の基本的合意

(一) 昭和四九年一二月二二日、会社従業員三六名は支部を結成し、この時分会も事実上発足した。

(二) 昭和五〇年五月一二日、支部は、公然化大会を開催し翌一三日には、会社に対し支部結成の通告をするとともに、本社内に支部組合事務所を、土浦事業所内に分会組合事務所をそれぞれ貸与するよう要求し、団体交渉を申し入れた。

(三) 昭和五〇年五月一五日、支部・会社間で団体交渉が行われ、会社は、各組合事務所を設置貸与することを了解した。

(四) 昭和五〇年五月一九日、支部・会社間で団体交渉が行われ、組合事務所問題については、貸与に関する協定内容及び利用方法を支部から会社に文書で提出し、その上で会社が設置場所を検討することで双方合意した。

(五) 昭和五〇年六月五日、支部・会社間で団体交渉が行われ、会社から支部組合事務所の設置場所について提案があつたが、支部はこれに反対し、物別れに終つた。なお分会組合事務所については具体的提案はなかつた。

(六) 昭和五〇年八月八日、会社は支部に対し、分会組合事務所を一〇m2の広さで、正門に向つて左側の隅に設置する旨、図面で提案した。

(七) 昭和五〇年九月一六日、支部執行委員長大池良三と分会代表者和家浩一郎は、連名で会社に対し分会組合事務所の設置場所について、会社提案の場所では工場棟から遠いとの理由で、コンプレツサー室と塗装工場間の空地に変更するよう要求書を提出した。

(八) 分会は、昭和五〇年九月三〇日、大会を開催し規約等を定め、独立した労働組合となつた。

三 支部・会社間の交渉経緯

(一) 昭和五〇年一一月一一日、支部・会社間で団体交渉が行われ、組合事務所問題について、会社は、「組合規約、組合員名簿を出して欲しい。話はそれからである。」と主張し、進展はなかつた。

(二) 昭和五〇年一二月二五日、支部は、会社に対し「組合事務所貸与の件」を議題とする団体交渉を申し入れた。

(三) 昭和五一年一月二一日、会社は、支部に対し「会社は今後の労使関係を相互信頼の上に立つものにするため組合規約・組合員名簿の提出を求めている。したがつて、会社はそれら提出後組合事務所について話し合う用意がある。」旨の文書回答を行つた。

(四) 昭和五一年二月一九日、二月二四日、二月二七日、三月五日及び三月九日、支部は、会社に対し「組合事務所設置の件」を議題とする団体交渉を申し入れた。

(五) 昭和五一年二月二三日、二月二七日、三月一日及び三月一一日、会社は、支部に対し「組合事務所については現在検討中であり、検討終了後回答する。」旨の文書回答を行つた。

(六) 昭和五一年三月一八日、会社は、支部に対し「先般よりの組合事務所貸与の件については、別紙の組合事務所使用貸借協定書により貸与する。」旨、文書回答し、分会組合事務所の設置場所については、昭和五〇年八月八日付提案を正門に向つて右側の隅に変更、広さについては従来どおりの提案であつた。

(七) 昭和五一年三月二五日、支部は、会社に対し「組合事務所設置の件」等を議題とする団体交渉を申し入れた。

(八) 昭和五一年三月二九日、会社は、支部に対し「組合事務所設置の件については、三月一八日付回答書で回答済みである。」旨の文書回答を行つた。

(九) 昭和五一年三月二九日、支部は、会社に対し、支部組合事務所について会社案に反対する理由を述べるとともに、分会組合事務所については、二〇m2の広さで再考されたい旨を文書で申し入れた。

(一〇) 昭和五一年四月八日、支部・会社間で団体交渉が行われ、議題にはなかつたが、組合備品の返還問題との関連で組合事務所についても話し合いがあり、会社は三月一八日の回答どおりであるという主張をした。

(一一) 昭和五一年四月一三日、支部・会社間で「春闘要求の件」、「組合事務所設置の件」及び「食堂使用の件」を議題とする団体交渉が行われたが、交渉は「春闘要求」を中心に進められ、組合事務所設置については、会社は「一〇m2以上では建築基準法上問題がある。」、「三月一八日の回答どおりである。」という主張をしたにとどまつた。

四 本件団体交渉拒否の経緯

(一) 昭和五一年二月六日及び二月一二日、分会は、会社に対し、分会組合事務所設置場所としてコンプレツサー室と塗装工場間の空地を要求し、団体交渉の申入れを行つた。

(二) 昭和五一年二月一七日、会社は、分会に対し〈1〉要求及び団体交渉の申入れは支部を通じて行われたい。〈2〉分会組合事務所の件については支部あてに回答済みである旨の文書回答を行つた。

(三) 昭和五一年二月一九日、分会は、会社に対し(一)と同様の要求書及び団体交渉申入書を提出した。

(四) 昭和五一年三月一日及び四月一〇日、分会は、土浦事業所長に対し(一)と同様の要求書及び団体交渉申入書を提出した。

(五) 昭和五一年三月四日及び四月一五日、土浦事業所長は分会に対し〈1〉所長には交渉権限がないので団体交渉に応ずることはできない。〈2〉申入れについては改めて社長あてに提出してもらいたい旨の文書回答を行つた。

(六) 昭和五一年四月一二日、分会は、会社及び土浦事業所を被申立人とし、分会組合事務所貸与の件を議題とする団体交渉の応諾を求めて、当委員会に不当労働行為救済申立てを行つた。

(七) 分会は、申立て後も、分会組合事務所について土浦事業所長に対して数回団体交渉を申し入れたが、団体交渉は行われなかつた。

第二判断

一 団体交渉拒否理由について

会社が、分会からの分会組合事務所貸与についての団体交渉申入れを文書により拒否したことは、争いのない事実であり、会社が主張する拒否理由は次のとおりである。

(一) 分会組合事務所の件について、支部との間に数次にわたり団体交渉を実施しているから、重ねて分会から同一事項について団体交渉申入れをすることは、交渉経過からみて信義則に反するとともに、二重交渉となり労使間に統一した意思の形成を欠くことになる。

(二) 土浦事業所長には、団体交渉を行う権限を一切付与していない。

(三) 組合事務所問題については、一事業所の問題ではなく全社的に影響を及ぼす問題であるから、統一的処理のため支部・会社間の団体交渉によるべきである。

(四) 分会役員二名が支部執行委員を兼務しており、現に支部・会社間の団体交渉に出席しているのであるから、分会と団体交渉を行わなくとも、分会としては、実質的に不利益はない。

二 右記拒否理由についての判断

(一) 一の(一)及び(二)について

ア 分会が自らの組合活動において最も重要な機能を果す組合事務所の設置に関心を有するのは当然である。しかも、既に支部・会社間の交渉において、分会組合事務所の設置貸与について基本的合意が成立しているのであるから、分会としては、その具体的実現に多大の関心を有するのは、なおさら当然と言わなければならない。

ところで、会社は、分会組合事務所問題について、支部に対し、当初のころは設置貸与を認めるなどして積極的に交渉に応じていたにもかかわらず、昭和五〇年八月八日に設置場所及び広さについて会社案を提示してからは、急速に誠意を欠き、昭和五一年三月一八日に修正案(設置場所について、「左側の隅」を「右側の隅」に変更するのみ。)を提示したにすぎない。しかも、分会結成(昭和五〇年九月三〇日)後、分会が単独で団体交渉を申し入れた日(昭和五一年二月六日)までに行われた支部・会社間の団体交渉は、昭和五〇年一一月一一日の団体交渉のみで、その内容についてもさきに認定したとおりである。

組合活動の拠点ともなるべき組合事務所に関し、その具体化について、このように何らの進展がない以上、分会が、これについて団体交渉を求めるのは当然である。

特に、会社が本社から離れた土浦事業所内に組合事務所を設置貸与する以上、分会が、本社のみならず土浦事業所における最高の地位にある同所長をも交渉の相手方と考えるのはこれまた当然である。

更に、さきに認定した事実からみて、本件に関しては支部・分会間に意思の統一を欠いているとは言えず、したがつて、分会との団体交渉に応じたとしても、会社に不利益が生じるとは認められない。

イ 以上のように、〈1〉本社と土浦事業所の所在地がかなり離れていること。〈2〉交渉議題が土浦事業所内における分会組合事務所の設置貸与であること。〈3〉分会は独立した労働組合であることなどからみて、会社及び土浦事業所の双方は、分会に対し、本件に関し誠意のある団体交渉をなすべき義務があると言わなければならない。すなわち、土浦事業所長が会社の窓口的立場にあつたにしても、会社は同所長をして交渉に応じさせ、同所長は権限の有無についての釈明を行い、あるいは要求事項の問題点を整理するなど問題解決のための方法を講ずることが可能であつたにもかかわらず、会社及び土浦事業所長が分会からの団体交渉申入れ当初から、所長に権限がないとして団体交渉に応じないのは合理的理由があるとは言えない。

ウ 分会が独自に団体交渉を申し入れた後も、支部が昭和五一年三月二九日に分会組合事務所の広さについて要求していることなどを考慮すれば、昭和五一年四月八日及び四月一三日の支部・会社間の団体交渉に分会組合事務所問題も含まれていたと考えられなくもなく、支部・会社間の団体交渉において、分会組合事務所の件についても十分に交渉が行われておれば、ことさら当委員会による団体交渉応諾命令の必要性を認め得ない場合もあろう。しかし本件においては、会社側の疎明をもつてしては、団体交渉応諾命令の必要がないほどの交渉が行われたとは判断できない。

よつて、この点に関する拒否理由には正当性を認めることができない。

(二) 一の(三)について

会社が、組合事務所問題は全社的問題と考えたとしても会社は、分会との団体交渉に応じ、団体交渉事項の振り分けについて交渉を行うなどして団体交渉ルールの確立に努めるならまだしも、分会からの団体交渉申入れ当初から、全社的問題であるとして団体交渉を拒否することは認められない。

(三) 一の(四)について

分会役員が支部執行委員として支部・会社間の団体交渉に出席していたとしても、分会の団体交渉申入れに何ら影響を与えるものではなく、分会との団体交渉を拒否する理由となるものではない。

以上のとおり、会社が分会申入れの団体交渉を拒否したことには正当な理由がなく、労働組合法第七条第二号に該当する不当労働行為である。

三 主文について

分会は、請求する救済の内容として、会社のほか土浦事業所に対する団体交渉応諾命令をも求めている。しかし、同事業所は、会社の一下部機関にすぎないから、当然、会社に対する救済命令に拘束されることになるので、主文のとおり命令する。

四 重複申立てについて

会社は、本件申立ては千葉県地方労働委員会に係属している不当労働行為救済申立事件(千労委昭和五〇年(不)第三号)と重複しているので、却下すべきであると主張する。

しかし、右記事件の申立人は支部であり、その救済内容も支部組合事務所の件についての団体交渉応諾であると認定できるので、この点についての会社主張は容認できない。

第三法律上の根拠

以上のとおりであるので、当委員会は、労働組合法第二七条及び労働委員会規則第四三条の規定により主文のとおり命令する。

(別紙(二))

再審査命令書

(中労委昭和五三年(不再)第一号 昭和五四年一二月一九日 命令)

再審査申立人 オリエンタルモーター株式会社

再審査被申立人 総評全国金属労働組合茨城地方本部オリエンタル土浦分会

主文

一 初審命令主文第一項を次のとおり変更する。

オリエンタルモーター株式会社は、総評全国金属労働組合茨城地方本部オリエンタル土浦分会と、同分会組合事務所貸与の件に関して、速かに誠意ある団体交渉を行わなければならない。

二 その余の本件再審査申立てを棄却する。

理由

第一当委員会の認定した事実

一 当事者等

(一) 再審査申立人オリエンタルモーター株式会社(以下「会社」という。)は、肩書地に本社及び豊四季事業所を、茨城県土浦市、香川県高松市及び山形県鶴岡市に事業所を置き、精密小型モーターの製造販売等を業とする資本金一億円の会社である。会社の全従業員は約九〇〇名であり、そのうち本社及び豊四季事業所は約四〇〇名、土浦事業所は約一〇〇名である。

(二) 再審査被申立人総評全国金属労働組合茨城地方本部オリエンタル土浦分会(以下「分会」という。)は、土浦事業所に勤務する会社従業員をもつて結成された労働組合であり、昭和四九年一二月二二日、会社に勤務する従業員をもつて結成された総評全国金属労働組合千葉地方本部オリエンタル支部(以下「支部」という。)の下部組織でもある。

また、当初、総評全国金属労働組合千葉地方本部オリエンタル支部土浦分会という名称であつたが、昭和五一年九月一九日分会規約を改正し、現在の名称に変更した。なお、支部結成当時の支部組合規約には、分会に関する規定はなかったが、分会は支部が公然化した頃より事実上分会として活動していた。

二 組合事務所貸与等についての支部、会社間の交渉経過

(一) 昭和五〇年五月一二日、支部は組合公然化大会を開催し、翌一三日会社に対して支部結成の通告をするとともに、豊四季事業所内及び土浦事業所内にそれぞれ組合事務所を設置、貸与すること等を要求し、団体交渉を申入れた。

(二) 同年五月一五日、支部、会社間で第一回の団体交渉が行われ、会社は豊四季及び土浦事業所内に各一ケ所の組合事務所を設置貸与することについて基本的に了解した。なお、組合事務所の具体的設置場所及び貸与条件等について、会社は同月一九日に予定された団体交渉の際に回答することにした。

(三) 同年五月一九日、支部、会社間で第二回の団体交渉が行われ、さらに同月二八日、第三回の団体交渉が行われた。その際会社は、「組合事務所等使用貸借協定書案」及び豊四季事業所内の組合事務所の具体的設置場所について組合に提示したが、支部は同案を持ち帰り検討することにした。

(四) 同年六月五日、支部、会社間で第五回の団体交渉が行われ、会社が提示した組合事務所等使用貸借協定書案及び豊四季組合事務所の設置場所について話し合われた。その結果、支部は右記協定書案について若干の留保条項を除き合意したが、組合事務所の設置場所については狭隘であるとの理由により反対し、合意は成立しなかつた。なお、このとき会社は土浦事業所の組合事務所について、具体的提案をしなかつた。

(五) 同年夏頃、支部、会社間で組合事務所貸与に関する協定締結のための事務折衝が行われたが、支部は、右記組合事務所等使用貸借協定書案に、〈1〉組合事務所の設置場所については豊四季事業所内の中庭に面した林の中に設置し、それまでは暫定的に第二事務棟の倉庫内に設置貸与する、〈2〉土浦事業所に組合事務所を設置貸与する、などを内容とする覚書を添付して会社に提示した。これに対し、会社は、覚書中に〈1〉の後段部分など合意していないものがあるとして、協定締結を拒否した。

(六) 同年八月八日、会社は支部に対し土浦事業所の組合事務所は同事業所の組合員数を考慮し一〇m2の広さとする、また、設置場所は、正門に向つて左側敷地内のパーキングスペース付近とする旨図面で示し提案した。

(七) 同年八月一二日支部は会社に対し、先に提案していた事業所交渉の件に関し、事業所ごとに限られる労働条件及び施設に関しては事業所ごとに協議すること、ただし、協議事項が全社に影響のおよぶ場合は、支部、会社間交渉による旨支部の方針を記載した書面を提出した。その後の団体交渉において支部は、会社に対して土浦事業所の組合事務所の設置場所については現場の組合員が一番熟知しているので、事業所ごとの交渉に委ねたい旨述べた。これに対し会社は、組合事務所の件については、土浦事業所長(以下「事業所長」という。)に交渉権限を与えていない、また、この問題は全社的な問題であると理解しているので支部、会社間の交渉において行いたい旨主張し、双方の見解は一致しなかつた。

(八) 同年九月一六日、支部執行委員長及び分会代表者は連名で、土浦事業所の組合事務所について、会社提案の場所では工場棟より離れ過ぎており、組合員が充分活用できないので、コンプレツサー室と塗装工場間の空地に設置してほしい旨の要求書を会社に提出した。これに対し会社は、設置場所の変更はできない旨口頭で回答した。

(九) 同年九月三〇日、分会は大会を開催し規約等を定め、正式に労働組合として発足した。なお、同年一一月頃分会は、会社に対し分会を正式に結成した旨通知した。

(一〇) 同年一〇月九日、支部執行委員長及び分会執行委員長は連名で、土浦事業所の従業員の配置転換に関する要求書及び土浦事業所において団体交渉を行うよう要求した社長あての申入書を事業所長に提出した。これに対し会社は、一〇月一六日付内容証明郵便で、労使間の問題は極めて重要であるので、事業所長には交渉権並びに妥結権等一切の権限を付与していないから、本社において支部との間で統括処理することにしている。したがつて、新たな要求事項があるならば、支部より社長あてに提出してもらいたい旨分会あて回答書を送付した。

なお、同日支部は、千葉県地方労働委員会(以下「千葉地労委」という。)に対し、就業時間中の組合活動の範囲の件等を交渉事項とする団体交渉応諾等を求めて救済を申立て(昭和五〇年(不)第三号事件)た。昭和五一年一〇月二〇日支部は、同申立てに、組合事務所設置の件を交渉事項とする団体交渉応諾等の救済申立てを追加した。

(一一) 同年一一月一一日、右記事件にかかる千葉地労委の勧告により、支部、会社間で団体交渉が行われたが、その席上組合事務所の件について会社は支部に対し、相互理解と信頼関係を作るためにも、組合規約、組合員名簿を提出してもらいたい。話はそれからであり、もしその提出がなければ組合事務所を貸与することはできない。第一回の団体交渉で組合事務所を貸与することを合意した際、会社は組合から組合規約の提出が当然あると思つていた旨述べた。これに対し支部は、組合規約、組合員名簿の提出を拒否したので、話合いは進展しなかつた。また、事業所ごとの交渉の件についても交渉が行われたが、会社は〈1〉事業所長には交渉権、妥結権等を付与していないので、労使間の問題は、支部、会社間交渉で行いたい、〈2〉事業所ごとの団体交渉については、組合の組織内容が理解できないので、組合規約を提出してもらいたい旨主張した。これに対し支部は、〈1〉については、事業所長が当該事業所の総括責任者である以上、事業所限りの問題は事業所ごとに団体交渉を行うべきだと主張し、見解は一致しなかつた。

なお、支部、会社間の団体交渉には、分会の役員二名が支部執行委員として出席していた。

(一二) 同年一二月二五日、支部は会社に対し「組合事務所貸与の件」を議題とする団体交渉を申入れた。これに対し、翌五一年一月二一日、会社は組合事務所の設置、貸与の条件として、組合規約と組合員名簿の提出を求め、それらの提出後組合事務所について話し合う用意がある旨の文書回答を行つた。

(一三) 支部は会社に対し、昭和五一年二月一九日、二月二四日及び二月二七日、「組合事務所設置の件」を議題とする団体交渉を申入れた。これに対し会社は、同年二月二三日、二月二七日及び三月一日、組合事務所については、現在検討中であり検討終了後回答する旨それぞれ文書回答を行つた。

(一四) 同年三月五日、支部は会社に対し、労使間の懸案事項についての団体交渉を、同月九日に開催したい旨申入れた。

(一五) 同年三月九日、支部は、会社に対し、右記懸案事項の具体的議題を〈1〉組合事務所設置の件、〈2〉組合備品の返却及び食堂使用の件、〈3〉就業時間中の組合活動の件、〈4〉事業所ごとの団体交渉の件とする旨の通知書を提出した。これに対し三月一一日会社は〈1〉について、前記(一三)と同趣旨の文書回答をした。

(一六) 同年三月一八日、会社は前記(一〇)認定の別件事件の審査委員長の要請にもとづいて、組合事務所についての会社最終案として組合事務所等使用貸借協定書により組合に貸与する旨等の文書による回答を行つたが、同回答書中の添付図面には、豊四季事業所及び土浦事業所内にそれぞれ組合事務所を設置する場所が示されており、それによると分会組合事務所の設置場所は、昭和五〇年八月八日付提案を変更し、正門向つて右側の隅とし、広さは従来どおりとするとの提案であつた。

(一七) 同年三月二五日支部は会社に対し組合事務所設置の件等について団体交渉の開催を申入れたが、三月二九日会社は組合事務所設置の件については、右記三月一八日付回答書で回答済である旨、文書回答をするだけで支部との団体交渉に応じなかつた。

(一八) 同年三月二九日支部は、会社の右記三月一八日付文書に対する回答として、支部組合事務所の設置場所について会社案に反対であるとして、その問題点を指摘し、理由をのべるとともに、分会組合事務所については、二〇m2以上の広さで再考してもらいたい旨文書で申入れた。

(一九) 同年四月八日及び四月一三日、支部、会社間で春闘要求をおもな議題として団体交渉が行われた。その際、組合事務所設置の件についても若干の話し合いが行われたが、会社は豊四季組合事務所について「一〇m2以上では建築基準法上問題がある。」「三月一八日の回答が会社の最終案であるからこれ以上は譲れない。組合が折れない限りこれ以上団体交渉をしても無駄である。」と主張し、具体的な進展はなかつた。

なお、四月一三日の団体交渉は、四月九日付支部の〈1〉組合事務所設置の件、〈2〉食堂使用について、を議題とする申入れと、四月一二日付会社の、〈1〉昭和五一年度賃上げ要求について、〈2〉組合事務所設置の件、〈3〉食堂使用について、を議題とする双方の団体交渉申入れにより開催されたものであつた。

(二〇) その後も支部は、会社に対し組合事務所設置の件について団体交渉を申入れたが、会社はすでに最終回答を示しているので、組合が折れない限り話し合つても無駄であるとして団体交渉に応じることはなかつた。

(二一) 同年七月二六日、支部は従来の交渉議題の表現を替えて、「支部組合事務所設置の件」と題する団体交渉申入書を会社に送付した。このときまで支部は、支部が団体交渉を申入れている以上、支部組合事務所についての団体交渉の申入れであることは当然のことであるとして、その団体交渉申入書には単に「組合事務所設置の件」とのみ記載していた。

三 本件団体交渉拒否について

(一) 昭和五一年二月六日及び二月一二日、分会は会社に対し、分会組合事務所をコンプレツサー室と塗装工場の空地に設置することを要求し、団体交渉の申入れを行つた。これに対し、同月一七日会社は分会に対して〈1〉要求並びに団体交渉の申入れは、支部を通じて行われたい。〈2〉分会組合事務所の件に関しては、右記二の(一二)認定の一月二一日付文書で支部に回答済みである旨の文書回答を行つた。また、同月一九日、分会は会社に対し、右記同様の団体交渉を申入れた。

なお、分会が単独で団体交渉の申入れをしたのは、支部から分会組合事務所の設置場所等の交渉は、分会交渉により解決を図つてほしいとの要請にもとづいて行われたものであつたが、分会からは会社及び事業所長にその旨を説明したことはなかつた。

(二) 同年三月一日、分会は事業所長が同事業所の最高責任者であるとの理由から、会社に替えて事業所長に対し前記(一)と同旨の要求書及び団体交渉申入書を提出した。これに対し同月四日、事業所長は分会に対して〈1〉事業所長には交渉権限がないので団体交渉に応ずることはできない、〈2〉団体交渉の申入れはあらためて社長あてに提出してもらいたい。申入書は社長に回送した旨の文書回答を行い団体交渉に応じなかつた。また、その後も分会は事業所長に対し、右記同様の団体交渉の申入れをしたが、同所長は交渉権限がないとの理由を挙げるだけで団体交渉に応じなかつた。

(三) なお、事業所長の会社内での職階は、部長相当職にあたり、また、施設についての増改築の権限はなく、保守管理の権限のみ与えられていた。

(四) 昭和五一年四月一二日、分会は会社及び事業所長を被申立人として、茨城県地方労働委員会に対して、本件不当労働行為の救済申立てを行つた。

(五) 分会は、本件救済申立て後も、事業所長に対し数回分会組合事務所の設置場所について団体交渉を申入れたが、同所長は前記(二)認定と同様の回答をするだけで団体交渉に応じなかつた。

以上の事実が認められる。

第二当委員会の判断

会社は、分会組合事務所の設置に関する分会の団体交渉の申入れに対し、会社がこれに応じなかつたことを不当労働行為であると判断した初審命令を不服として争うので以下判断する。

一 会社の団体交渉拒否理由の当否について

(一) 会社は、分会が今迄会社と支部との間で組合事務所問題全般について団体交渉を重ねてきた交渉経過を無視し、会社に何等説明もないまま、分会組合事務所の設置に関する団体交渉の申入れをしたことは信義則に反し許されないばかりでなく、二重交渉となる、また、会社の最終案に対し、支部からは文書で分会組合事務所問題を含め、その見解を示してきたが、分会からは何等の意思表示もなく、会社としては、本件申立て前後の五一年四月八日及び同月一三日の支部との団体交渉においても、組合事務所問題はその議題を、支部組合事務所に限るという認識はなかつたと主張する。

〈1〉 たしかに、前記第一の三の(一)認定のとおり、分会はその申入れに際して会社に説明しておらず、また、分会の申入れと併行してなされている支部の申入れも、従来からの交渉議題を変えずなされているのであるから、分会の団体交渉申入れが適切なものであつたとはいい難く、かつ、この点のみについてみれば、会社がこの分会の団体交渉申入れを、二重交渉になると考えたのも無理からぬものがある。しかしながら、前記第一の二の(七)認定のとおり、既に支部からは、会社との団体交渉の席上、事業所交渉についてと題する書面を提出し、土浦事業所の分会事務所の設置場所等については分会交渉に委ねたいとする理由を会社に説明しているのであり、支部が会社に示した事業所ごとの交渉の件についての組合側の方針と支部、分会の現実の対応との間にそごがあるともみられない。しかも、五〇年一一月の段階では、会社は既に支部との団体交渉を拒否し、会社、支部間での団体交渉が行われておらず、分会組合事務所についてはその交渉事項として残されたものが、その設置場所と広さの問題だけなのであるから、これを直接使用することになる分会があらためて団体交渉を申し入れることは、また当然の成りゆきである。

〈2〉 また、会社が分会の団体交渉の申入れが、支部との二重の申入れであると考えたのであれば、そのことを分会に告げ、じかに分会の考え方を質して確認する等できたと考えられるのに、会社は、前記第一の三の(一)及び(二)認定のとおり、事業所長には権限がない、要求及び申し入れは支部を通じて行われたい、支部あて回答済であるなどと、単に文書回答するだけであつて、分会とは全く交渉していないのである。

〈3〉 そして、会社が支部に対して、分会組合事務所の設置場所及び広さについて初めて会社案を提示した以後は、五一年三月一八日にその修正案を最終案であると文書回答したに過ぎない。また、会社最終案に対する組合側の対応に関する会社主張については、会社の最終案なるものは、前記第一の二の(一六)認定のとおり、千葉地労委の要請にもとづき提示されたものであることからみれば、同地労委への申立人となつている支部が、会社案に対する見解を示すのは当然であり、同地労委の要請により提示された会社案に分会から何等の意思表示がなされなかつたとしても、そのことが分会の団体交渉申入れに影響を及ぼすものでもない。また、五一年四月八日及び同月一三日に行われた団体交渉は、前記第一の二の(一九)認定のとおり、主として春闘要求に関するものであり、ほかに支部組合事務所の問題が若干話し合われたことは認められるが、会社はその最終案を固執するのみで、これ以上交渉しても無駄であると述べ、およそ組合事務所問題に関する誠意ある団体交渉といえるものではない。結局のところ、会社は五〇年一一月一一日の支部との団体交渉以来、それぞれ独自の団体交渉権を有する支部、分会のいずれとも団体交渉を行つていないのであるから、二重交渉になるとの会社の主張をそのまま認めることはできない。

(二) 会社は、土浦事業所の労使問題の組合交渉については、事業所長には交渉権を与えておらず、支部との団体交渉要員を充てることにしており、また、その交渉要員としている総務部長は、同事業所の建物配置等を知悉しているので、工場施設の増改築については、その権限を持たない事業所長を団体交渉に出席させても何等寄与するところはなく、また、団体交渉に参加させなければならない法的根拠もないと主張する。

たしかに、本件の場合、会社の一事業所長にすぎない土浦事業所長が、会社とともに団体交渉に必ず参加しなければならないとする理由は認めがたい。

しかしながら、事業所長は、いうまでもなく事業所に関する限り、会社側の当面の最高責任者なのであるから、交渉権を与えられていなくとも、分会の意向の聴取、所長権限の範囲等の説明を行うなど、会社との交渉の窓口的役割はなしえたものと考えられる。しかるに会社及び事業所長は、いずれも分会の団体交渉の申入れの当初から、事業所長には交渉権限がないと文書回答したのみで、権限ある交渉要員の派遣等、分会と交渉を行うという姿勢もみせなかつたのであつて、このような会社の態度は首肯し難く、事業所長に交渉権を与えていないことをもつて、団体交渉を拒否する正当理由とはなしえない。

(三) 会社は、組合事務所設置の問題は、一事業所に限らず、会社に影響を及ぼすものであり、組合が自ら示した基準にしたがつても、分会を団体交渉の当事者とすべきものではないと主張する。

しかしながら、分会組合事務所を設置し、貸与するということは既に支部との交渉で了解に達しており、未解決となつているのは、具体的設置場所と広さの点である。仮に、設置場所と広さの問題が全社的に影響を及ぼす問題であるとしても、支部交渉とするか分会交渉とするかについて、現に双方に異論がある以上、先ずその振り分けについて支部なり分会なりと交渉を行うべきであり、このような手続きを経ず、当初から一方的に全社的問題であるとして、分会との団体交渉を拒否する会社の態度を是認することはできない。

(四) 会社は、相手方交渉当事者の交替によつて、会社としては、従来積み重ねられた交渉が変更されるおそれがあり、また、団体交渉ルールから始めなければならない等、無駄なエネルギーを浪費させられることになる等の不利益がある反面、分会にとつては、会社が分会と団体交渉を行わなくとも、会社と支部との団体交渉に二名の分会役員が支部執行委員として参加しているから、何等不利益はないと主張する。

〈1〉 しかしながら、前記第一の二の(六)、(八)、(一六)、(一八)及び三の(一)、(二)認定のとおり、分会組合事務所の設置場所及び広さの問題については、双方から要求と回答の文書が取り交わされているに過ぎず、支部との交渉でこの点につき、やりとりが重ねられたと認められる資料もないから、積み重ねられた交渉が変更されるおそれがあるという会社の主張は採用することができない。

また、分会は支部の下部組織であるとはいえ、単位組織として独自の団体交渉権を有するものであり、分会が団体交渉を申し入れる以上、団体交渉ルール等から交渉を始めなければならないとしても、このような交渉の手続上の煩瑣は、そのことを団体交渉拒否の正当理由とすることはできない。

〈2〉 また、支部との団体交渉に二名の分会役員が参加しているからといつて、分会がその独自の団体交渉権にもとづいて、現に団体交渉を申し入れている以上、分会との団体交渉を拒否する正当理由とならないことも論をまたない。

二 重複申立てについて

会社は、支部が千葉地労委へ申立てている組合事務所設置に関する団体交渉の問題は、これまで支部との団体交渉において、分会組合事務所も含んでいるとの共通の認識のもとに行つていたことから、その申立ては、支部、分会双方の組合事務所に関する問題であるので、本件救済申立ては、これと重複する申立てであると主張する。

しかしながら、本件手続きにおいて提出された甲第六〇号証及び第六一号証によれば、支部が千葉地労委に申立てしている組合事務所設置に関する団体交渉応諾の件の範囲には、土浦分会組合事務所は含まれていない旨明示されており、会社の主張は採用できない。

三 本件不当労働行為の成否について

前記第一の三に認定の事実及び前記二の各判断を総合すると、本件は、分会の団体交渉の申入れ、特に分会が単独で行つた五一年二月六日以降の申入れに対し、会社がそれらの申入れの当初からこれを拒否していることが認められ、さらに、会社の挙げる団体交渉拒否理由はいずれも正当理由となりえないと判断されるので、会社の行為は労働組合法第七条第二号に該当する行為であつて、これを不当労働行為であるとした初審判断は相当である。

なお、右記一の(二)判断のとおり、初審命令主文第一項中の土浦事業所長に関する部分は適当でないので、主文のとおり変更することとした。

以上のとおり、初審命令主文第一項中の土浦事業所長に関する部分を除き、本件再審査申立てには理由がない。

よつて、労働組合法第二五条、同第二七条および労働委員会規則第五五条を適用して主文のとおり命令する。

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